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東京地方裁判所 昭和45年(ワ)9846号 判決

被告 協和銀行

理由

一  請求の原因(一)の事実は、当事者間に争いがない。

本件定期預金契約の締結にあたり、田崎久三郎が預金者名を「石野与久」と表示したことも、被告の認めて争わないところである。

二  そこで、預金者名を「石野与久」と表示したことが、原告のためにすることを示したことになるか否かについて検討するに、本件定期預金をするにあたり、田崎久三郎が自己振出の「個人小切手」をもつてみずから預入手続をしたことは原告の認めるところである。

また、《証拠》中1ないし5、7および8の各事実を認めることができ、これに反する証人田崎久三郎の証言は信用しない。

さらに、原告は、かねてから田崎久三郎に対して金二、〇〇〇、〇〇〇円を貸していたところ、その返済をうけるにあたり、右金員を原告名義で被告に定期預金として預け入れることを依頼した旨主張するが、本件全証拠によつてもこれを認めることができないばかりか、証人田崎久三郎の証言によれば、かえつて、このような事実はなかつたことが認められる。

以上の事実に弁論の全趣旨(ことに、原告は本人尋問のため二度にわたつて出頭を約しながら、なんら正当の事由を示すことなく、いずれも欠席し、結局、原告本人尋問の申請を撤回したこと)をあわせ考えれば、田崎久三郎は本件定期預金をするにあたり預金者名を「石野与久」と表示したものの、これをもつて原告のためにすることを示したものとはいえず、単に自分自身を表示するための符牒としてたまたま原告の氏名と同一の呼称を用いたにすぎないことが、容易に推認され、これを覆すに足りる資料はない。

三  そうすると、田崎久三郎が原告のためにすることを示して本件預金契約を締結したことを前提とする原告の本訴請求は、進んでその余の点につき判断するまでもなく、理由がないものというべきであるから、これを棄却する

(裁判官 佐久間重吉)

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